連続でステーブルコインの話と行きましょうか、最近ほんとにステーブルコインの情報が自分から追わずともバンバン入ってきます。普通に関連する情報自体の母数が増えていると捉えてるので久々の「Stablecoin War」来てますわ(個人の見解)。
前回の流動性合戦とは打って変わって、今回はステーブルコイン自体のバリュエーションがたくさんになってますね。仕組みがパッと見じゃ理解できないレベルに複雑化してきているので正直追うのも一苦労でしょう。
今日はここ24時間ぐらいのステーブルコイン周りの進展を、「Prisma Fianance」のローンチ前戦略、「crvUSD」の新機能、「LUSD」の覇権、その他色々としましょう。
昨日の話の続き
Raftについて勉強不足だったのであの後docsを読み漁って少し詳しくなりました。そこでインプットした情報を復習がてらアウトプットしたいと思います。
RaftはLSDの発行するLSTを担保にし、LSの利回りを得ながらRを借りて資金効率を上げられることを売りにしているそう。現時点でstETH、wstETH、rETHを担保として利用可能です。確かにこれは嬉しいですよね。
その中でもhard-pegとsoft-pegの両方を掛け合わせることで、より強固なpegを実現しているそう。仕組み的にはSAI(Single Collateral Dai)とLUSDをいいとこ取りした感じでそれぞれがどこに活きているのか順番に見ていきましょう。
借入時の条件は「120%以上の担保率」「3,000R以上」「Single Collateral(複数のLSTを担保にできない)」の3つです。清算の部分に特殊なものはなかったです。
Flash mintも利用できます。Flash loanのステーブルコイン版で、DAIにも同様の仕組みがあった気がします。1tx内でRの返済を行う場合に限って供給量の最大10%(現在は5%が上限)をmint可能、そして手数料はかなり破格の0.01%とのこと。
これはどっちでもいいんですが、DAIはもちろん同様のステーブルコインはCDP、すなわちポジションと表現できるわけですが、Raftのdocsは特にポジションと表記しており、他のステーブルコインではあまり見かけないなぁってふと。
次にpegの方法について、hard-pegの手段として下振れは「償還の促進」と上振れは「裁定機会の創出」を採用しています。まあこれらは一般的なもので、価格が下振れたら金利を上げてRの借り入れメリットを減らして償還(返済)を促すことで市場のRをburnさせ、相対的にpegさせるというもの。
上振れに関しては前提として担保率が最低120%であるため、どんな状況においても1Rの裏付け資産は1.2ドル以上あるというのが原則です。なので1.2ドル以上になった場合、120%の担保率でRを借りれる(実質1.2ドルで仕入れ可能)のでRを借りて市場で売ることで借主が利益を得られるとともにRの価格は1〜1.2ドルの適正価格へと収束するということ。
まあ1ドルを上回った時点で十分な流動性があれば、余程の発行インセンティブがない限りは1ドルに収束するよう鞘を取るので後者はあまり気にせずOKかと。なんかそういえば最近保有インセンティブがゲキ強すぎてずっと上乖離しているステーブルコインあったんだけどUSD+じゃなくてなんだったっけなああ、、
soft-pegの手段として「裁定取引の利益期待の創出」と「流動性向上」の2つを利用しています。1つ目の方は完全にtrustだと思ってて、例えばUSDTとかUSDCがdpegしてたら、いま買えばrepegした時に利益出せる!と思って買う人がいますよね。その心理というか行動を促せるインセンティブとかそれこそtrust(信頼)が必要ということ。
流動性向上も強力なインセンティブ設計か目新しさが必要ですね。今回のタイトルにもあるよう「War」と表すほど飽和状態にあるステーブルコイン市場でどのように流動性を上げていくのかは気になりますね。ちなみにRaftには適切な流動性を市場に構築していくための「Liquidity Committee」なる組織があるそう。
まあ話すと長くなるのでR(Raft)の話はここらへんまでにしておきます。それではここから本題に入っていきましょう。
Prisma Financeの概要
CurveエコシステムがDeFiの中でいかに重要か、そしてどれほどの影響力の強さがあるのかは今まで散々話してきましたが、プロジェクトのロードマップとしてではなく立ち上げ当初から影響力を上手く活用しようとするプロジェクトがあります。それは新たにステーブルコインを発行するprotocolの「Prisma Finance」です。
ちなみになぜここまで前談でRの話をしたかというと結構仕組みが似ているんですよね、これが。PrismaがどうやってCurveを有効活用しようとしたのかをみる前にPrismaの概要をRを踏まえてざっくりと説明しておきましょうか。
Prisma FinanceはEthereumのLSTを最大限に有効活用することに焦点を当てたDeFi protocolです。PrismaではLSTを担保にしたステーブルコイン「mkUSD」を発行できます。しかもCurveとConvexでインセンティブが付与されるので、LSTにあるEthereumからのstaking報酬に加えて、流動性提供を行うことでpoolからの取引手数料、CRV、CVX、PRISMAを受け取れます。
ユーザーはLSTの資金効率を高め、より良い利回りを受け取れるのと同時に、LSDは自分たちのLSTを発行してもらうためのインセンティブをPrisma上で提供することもできます。すなわち自分たちのLSTでmkUSDが発行されることへのインセンティブをPrismaを通じて外部で付与できるということ。
そして借入時の最低担保率は120%、最低発行枚数は2000mkUSD。Rと異なり1アドレスで複数LSTを担保にできますが、ローン自体はLST毎に計算されて組まれるので、実質担保は分離していますね。ちなみに対応している担保資産は、wstETH、cbETH、rETH、sfrxETHの4つです。
AAVEなどのLending protocolとは異なり、清算部分に独自の「Stability Pool」という仕組みを採用しています。このpoolにmkUSDをに預けることによって清算されたLSTの割り当てを割安で受けることができます。要するに清算されたLSTの出口流動性になっているわけですが、MCR(最小担保率)のすぐ下の価格で清算が実行されるため、最大で100%*20/100(16.67%)の割引率でLSTが買えると思ったらやばい。
repegの仕組みはRと同様に下乖離を起こすと金利を上昇させ召喚を促し(供給量を相対的に減らす)、新規の借入を抑制(いま借りるインセンティブを減らす)します。
protocol feeを生み出すポイントはmint(新規借入)とburn(償還)時に発生する固定手数料と借入金利です。
またprotocol全体の担保比率を意味するGlobal Total Collateral Ratio(GTCR)が定められており、この閾値をprotocol全体で下回るとMCRが150%へと上昇し、清算対象ポジションは全てその時点で清算されます。同時にMCRが150%以下の新規ポジションを持つ(新規で借入を行う)こともできなくなるので、新しく120〜150%の担保率で借入を行いたい場合は、すでにポジションを保有している人たち(mkUSDを借入てる人)が担保比率を上げるしかないです。この仕組みを「Recovery Mode」と呼んでいます。
あと気になるのはトークノミクスの部分、Curveの「Vote Escrow(ve)」からインスピレーションを受けた「Lock Weight」なる仕組みを採用。PRISMAを最大52週間ロックすることによって、期間に応じた議決権が割り当てられます。
またまたveを使うということはですね、boostもあるんですよ(ざっくりとかいいながら楽しくなって話しすぎ)。ロックしたPRISMAの量に応じて受け取れる報酬を最大で2倍にまでboostできるんですよね。ってことはゴニョゴニョすれば「Prisma War」が起こるってことではないか、、、!boostを委任することもできるみたいで、、、ってところぐらいにしておきましょうか、本題の本題にあたる戦略部分に行きます。
Prisma Financeの戦略
PrismaはCurveのガバナンスに有利に関与するためにとある作戦を実行してます。それはPrismaのCurveProxy contractをCurveのSmartWalletWhitelist contractのwhitelistに登録してもらおうというもの。ちょうど昨日proposalが公開されました。
まずここで知ったのは、PrismaがMichael Egorov㌠からOTCでCRVを購入していたということ、そしてそのCRVは永久的にロックすると。このveCRVを利用してPrismaは、mkUSDの発行インセンティブを強化するために「PRISMA/WETH」と「mkUSD/FraxBP」の2つのpoolのCRV報酬割り当てを増やすよう投票します。加えてCurveエコシステムのVotiumやVotemarketを通じて該当poolに投票してくれた人たちには追加のインセンティブが用意されます。
ちなみにFraxBPとはFraxBasePoolの略で、Curveの3Crvに相当するBasePool Tokenで3Crvは「DAI/USDC/USDT」で構成されているのに対し、FraxBPは「FRAX/USDC」の2つのステーブルコインで構成されています。
上記のことを実現してCurveエコシステムの一員になるために、CRVが割り当てられるwhitelistへの登録が必要だってこと。そしてこのproposalの賛成に投票してくれたveCRVホルダーには52週間ロック付きのPRISMAがエアドロされるらしい。
こういうやり方もあるんですね、Curve好きと言っておきながらそんなにしっかり追えてなかったのでこんなケースって前例あるのでしょうか?whitelist関連のproposalはStakeDAOとかConvexで前にもありましたが、ローンチ時点から計画してエアドロを含んでやってるのは初めてかもしれないですね。mkUSDの発行量増加はもちろんのこと、LSTのutility増加にも貢献してますし、mkUSDの流動性を効率良く向上できている点は素晴らしい設計ですね。
crvUSDの新機能
Stablecoin Warが開戦しようとしているいま「crvUSD」も着々と進化しています。発行量が100Mの大台前後を推移してる中でcrvUSDのレバレッジ借入機能が追加されました。最大で9倍のレバレッジをかけてcrvUSDを借りられるとのこと。
え、1,000ドル分の資産を担保に8,000crvUSDを借りれるの!?ずっと繰り返すと無限にお金増やせるんじゃね!?そう思ったあなた、そんなに甘くないですこの世の中。
従来の信用取引だと借りてきた資産を勝手に持ち出したりはできず、口座内でロックされますよね(例えば1,000ドルを担保にレバレッジを10倍かけて10,000ドル分のBitcoinを購入したとしてもこのBitcoinを出金することはできません)。
このCurveのレバレッジcrvUSDも同様の仕組みで借りたcrvUSDはオンチェーンで実際にスワップされ現物で存在しているものの、特定の管理ウォレットに送られ我々が触ることはできません。実際のtxを見てみましょう。
tx hash: 0x26e4…3c86
借り入れたcrvUSDがcrvUSD Controllerから<使用担保(今回の場合はWBTC)>-crvUSD leverage zapへtransfer
CurveのSwap Routerを通じてcrvUSDをWBTCにスワップ
経路はcrvUSD→USDT→ WBTC
txのsenderから担保資産をLLAMMA-crvUSD AMMにdeposit
レバレッジをかけたWBTCもLLAMMA-crvUSD AMMにdeposit
上記のような流れでレバレッジをかけています。なのでcrvUSDを借りて担保資産をロングしているってことですよね、担保資産の値動きに基づき想定される収益ケースを紹介します。
担保資産の価格が上昇した場合
担保資産のドル(crvUSD)建価格が上昇するため、crvUSDを返済するときの差額が利益になります。1,000ドル分の資産を担保に8,000crvUSDを借りて担保資産に交換したとします(レバレッジ9倍)。担保資産の価格が1,100ドルに上昇した時に8,000crvUSDで交換した担保資産の時価評価額は8,800crvUSDになります。
よって8,000crvUSDの返済を行なったときに償還される1,100ドル分の担保資産(含み益100ドル)と800crvUSDを合わせた900ドルが利益になります(手数料やガス代、金利は一切考慮しないものとする)。
担保資産の価格が下落した場合
担保資産のドル(crvUSD)建価格が下落するため、crvUSDを返済するときに不足分の差額を持ち出しで用意する必要があります。もしくは返済ができない場合はあらかじめ決められた清算ラインでポジションが清算されます(担保資産の没収)。1,000ドル分の資産を担保に8,000crvUSDを借りて担保資産に交換したとします(レバレッジ9倍)。担保資産の価格が900ドルに下落した時に8,000crvUSDで交換した担保資産の時価評価額は7,200crvUSDになります。
よって担保資産を償還しようとしたときに不足する800crvUSDは市場から購入して補填する必要があります。よって8,000crvUSDの返済を行なったときに償還される900ドル分の担保資産(含み損100ドル)と補填した800crvUSDを合わせた900ドルが損失になります(手数料やガス代、金利は一切考慮しないものとする)。
いずれにおいてもレバレッジを利用するユーザーが増えてOIが積み重なった場合、実質的にcrvUSDの売り圧につながるため、このタイミングでこの機能をローンチしたのはcrvUSDのキャッシュポイントを増やす上での十分なストレス耐性(市場の売り買いに十分に耐えられる流動性の確保など)が確認できたためと捉えられます。
レバレッジ機能の発表後すぐにcrvUSDの発行量が100Mに復活したこともあり、crvUSDの発行量増加に貢献できることは間違い無いです。他にも新機能が追加されると思いますのでアップデートがあれば解説をまとめます。
LUSDの覇権への王手
LUSDエコシステムが最近急速に拡大しています。CDPの中でも自身の地位を確立しつつある「Liquity protocol」のLUSDがまたもや大手protocolに進出しました。
LUSDは昨日AAVEのproposalを反対票なしで無事通過し、V3 Ethereum poolで担保として利用できるようになりました。LTVも77%で主要ステーブルコインのUSDCと同じですし、GHOの流動性向上にも大きく貢献できそうです。
こういったアナウンスが多くあるだけではなく、Liquityはprotocolとして堅調に成長を続けています。発行量の推移を見てみましょう。
ベアマーケットの煽りを受けてDAIと同様にピーク時からは大きく発行量を落としているものの、直近1年で見ると50%近く発行量を伸ばしています。
他のCDPと比較しても4位を大きく引き離しMakerDAO、JustStablesに次ぐ3位で、DAIの次に連想されるCDPにまでは成長してきているように感じます。これからベアマーケットを抜け出したときの伸び代は大きいと思うので、周辺エコシステムの状況やアナウンスを含め継続的に発信していきます。
さいごに
いやああ、かなりステーブルコインに関する情報が多いですね。これマジで24時間以内でこれですよ。「ステーブルコイン通信」でも作っちゃおうかしら()
実際日本でこの感じのステーブルコイン(DeFi寄り?)に興味がある人はどのぐらいいるのでしょうか?もしステーブルコインの民だよ我こそは!って方がいらっしゃったらぜひ私のX!にDMください笑笑
それでは明日のニュースレターでお会いしましょう、おやすみなさい!