みなさんお久しぶりです、少しニュースレターの更新が空きましたが、仕事が一段落したので帰ってきました。最近は大型PJのTGEが相次ぎ、Taiko、Avail、zksync、Eigenlayerなどなど、良くも悪くも忙しい1ヶ月だったと思います。
そんな中で自分も利用している「Sanctum」というプロジェクトが、ガバナンストークンの発行とその詳細を公開したスレッドが個人的にホットな話題です。
今日はSolanaの有望PJ「Sanctum」が発行する「$CLOUD」について、founderのFP Lee氏のスレッドをベースに解説をしたいと思います。
Sanctumについて
Source: sanctum.so, twitter.com
Sanctum(読み: サンクタム)とは、$SOLのLiquid Stakingエコシステムを拡大していくことを目標に立ち上がったプロジェクトで、主にLST(Liquid Staking Token)の発行と、Sanctumと提携して発行されたLSTの流通を行っています。プロダクトの一つでもる「$INF」も面白い仕組みなので後ほど紹介します。
Sanctumがプロジェクトの認知拡大のために実施している「Wonderland」というプログラムがエアドロの期待値が高いことで日本でもKOLに紹介され、注目が集まっていますが、プロジェクト自体のポテンシャルも大いにあると考えています。
LSD市場が注目され始めたのは、数年前に遡ります。Lido、Rocket Poolの登場を筆頭に、ETHエコシステムでLSTは一般的なものになりました。LSDとLSTについて少しおさらいしましょう。単なるstakingでは、資産の拘束を伴う上に、単一の利回りしか得ることができません。1ETHをstakingしている証明として1stETHというトークンを受け取れるとしたらどうでしょう?この1stETHを元手にUSDCを借りるための担保資産として利用したり、stETHとETHで流動性供給を行い、staking報酬とは別でLP報酬を得ることもできます。
このstakingをliquid(流動的)にすることで、derivative(派生商品)にするLSDは、ETH以外のエコシステムでも一般的になってきています。筆頭としてSOLやATOMなどのエコシステムで大きな存在感を示しているDeFiの重要セクターの一つです。
そんなSanctumはLSD市場で12位、SOL系LSDでもJito、Marinadeに次いで3位、直近のキャンペーンも好評で、続々とTVLを伸ばしています。
またSanctumのユニークなアプローチの一つとして、プロジェクトのLST発行を支援している点が挙げられます。一般的にLSTを発行しようとすると、JitoやMarinadeのようにプロジェクトとして立ち上げることが一般的で、更にSOLとの流動性供給を行うインセンティブを用意したり、プロモーションを行う必要があったりと、LSTを発行してバリデーター収益を得ることよりも大きなコストを要していました。
Sanctumに資金が依存する単一障害点を生み出すことを承知で、$INFなどを活用することで、上記の問題解決に成功の兆しが見えています。
$INFを活用した課題解決
新規トークンの流動性枯渇問題、どのプロジェクトも直面する大きな課題の一つで、LSD市場においても、LSTのメリットを最大限にするためにも流動性は潤沢であるべきだとされています。一方で現在50を超えるSanctumで横並びにされたLSTを見て、どのLSTが利回りが高いのか、プロジェクトの特性を見るのは正直手間です。そんなユーザーのペインと流動性問題を同時に解決する方法が生み出されました。
流動性提供を行う際は、基軸のトークンとLSTのペア(例: SOL-bSOL)で流動性を組むことが一般的でしたが、Sanctumで発行するLSTのすべてで流動性を組む(例: SOL-bSOL-bonkSOL-cgntSOL-compassSOL-driftSOL-...)ことで、LSTから生まれる最適な利回りを受けることを実現しながら、LST毎の流動性を確保し、同時に各LST発行体の利益も享受できるようにしました。LSTやステーブルコインのような基軸トークンに価格が追従する仕組みだからこそできる設計ですね。
エアドロ疲れに一矢報いる、Sanctumの狙い
ポイントプログラム、手数料削り、リファラル、これらのエアドロ活動はエアドロハンターの中では一般的でエアドロの代名詞としても広く知られています。一方でTGEを煽る過度なプロモーションは長期的に見ると、プロジェクトの首を締める行為になることが多いです。Sanctumは、プロモーションとしてはTVLを上げるための有効的な策だと認めながらも、この現状にカウンターを仕掛けようとしています。
TGE煽りを行ったプロジェクトの末路はというと、大幅なTVL、取引ボリュームの低下。TGE後の虚無プロジェクトになる、この2択が大体のプロジェクトで起こってしまってます。要するにそのTVLとボリュームは決して実需でなく、エアドロのための奉仕でしかないということ。トークンをもらったら「おさらば!」というワケ。まあわからんでもないが過度に煽ると当たり前にこうなる。
この結果はどのプロジェクトも理解しているでしょうが、まあ一時的にでも効く特効薬があれば人間、そんなもん使ってしまうものです。同じ末路を歩むことを承知の上で、TGEを煽っているのが現状のこの界隈です。
Sanctumも現在ポイントプログラムを行っていますが、Season毎に上限を決めたポイントの配布をし、上限に達したSeason1のあとに立て続けにSeason2は敢えて行わない方針を発表しています。またfounderも「TVLは良い指標になるが、多くの場合はVCから資金調達を行うときのものでしかなく、重要なのは実需を伴う資金の流入だ(意訳)」とツイートしており、俗に言う「エアドロ疲れ」を防ぎ、プロモーションとしてもプロジェクトとしても本気で成功させようと計画を立てていることでしょう。
決められたレールには乗らない
Sanctumチームは、SOLエコシステムの中でも存在感を示す「Drift」のTGEを評価し、自身のトークン設計に大いに活かしているようです。エアドロの時と同様に従来の設計のアンチテーゼ的な要素を採用しようという意向を感じます。
例えばアロケーションの多くに採用されていた、CEXへのListing Feeや初期の流動性の提供。直近の$ZKのbybitへの上場アナウンスで話題になっていたように、取引所へのmarket makeや、初期の板寄せを行うためのトークンの貸出を行わないプロジェクトが登場してきています。賛否両論がありますが、本来のブロックチェーンエコシステムにCEXは必要ないということでしょう。たしかに言われてみればそう。
上場したければ勝手にそっちでやれ。その方針を表明し、現状の市場に対するコメントも残しました。「何としてでも上場にこぎつける、トークンを我が子にように可愛がるべきなのに、長年の努力の結晶なのに。なぜ決められたレールに沿う必要があるの?(意訳)」と。文面からもトークンの重要性を伝える姿勢を感じました。
またMemeの波のおかげで、Solanaエコシステムが最注目されている昨今。ネイティブユーザーが増加していることもあり、LST市場へオンボーディングすることで、オンチェーンの民を増やすことも計画しています。
$CLOUDについて
Sanctumは他プロジェクトと同様に独自のガバナンストークンを発行します。うちの社内でティッカー予想大会を行っていましたが、全員外れました。☁️のアイコンなので$CLOUDになるとは、正直めっちゃカワイイ笑笑
そんなことはさておき、ポイントプログラム、トークンローンチまでの道筋。と、すべての要素で良い逆張りをしてきたSanctumですが、もちろんトークンのアロケーションにもいくつかの工夫が仕掛けられています。
アロケーションを見て、特段変わった利用用途はないように感じますね。ちょっと気になったのは、下の方にあるLFGです。まだ知らない方も多いかもしれません。
LFGとはSolanaエコシステムでもデカめのDEX、Jupiterが運営しているコミュニティ主導型のlaunchpadで、$WEN、$JUP、$ZEUS、$SHARKY、$UPTのトークンローンチを完了しており、今後はdeBridgeの$DBRと、Sanctumの$CLOUDがこのLFGを通じてローンチする予定です。Jupiter LFGの特性とか、立ち上がった経緯的なフォーラムも面白いなと思ったのでまたその解説は別日に。
トークンの話に戻りましょう。SanctumチームにとってのTGEにおける成功の定義は何なのか。それは「十分な流動性のもと、価格発見(price discovery)機能の最大化を促進するものであるべき。また公正かつ公平で、有識者や著名人、機関投資家や一般の個人投資家などに関係なく、同じ条件で参入できる設計である。(意訳)」というもの。
それを実現するために誰もが安価で購入できる状態から、参入人数が上がるにつれて価格を上昇させ、均衡価格に流動性を集中させる方式にしようと考えました。またその時に課題となるBotの参入を防ぐための「Alpha Vault」の導入、先着順ではなく、預け入れられたUSDCに比例してトークンが分配される方式です。
またトークンをより好条件で保有できるように、長期間ホールドしてくれる方には割引などの特典を用意しています。最近この手法は増えてきましたよね。TGE後の高ボラティリティな状態が引き起こす価格の急変動は、プロダクトにとって雑音になることが多いです。即stakingの要領で、売り圧を分散するために、トークンの受け取りを遅らせてくれる場合は、より多くのトークンを割り当てるよというもの。
加えて、ロック期間も敢えて長くしない方向で考えています。先程の売り圧につながる行為なので逆効果なのではと思われますが、これはまた違った見方がありまして。トークンをVCよりも早く売れるようにしたいという運営の思いですね。より好条件で購入したであろうVCの利確売り圧を浴びせられるのはさすがにっていう考えでしょう。その他の細かい販売ロジックはぜひ元ツイートを見てみてください。
さいごに
学者がアドバイザーで入っています!みたいな宣伝方法を取る半ば詐欺っぽいオレオレトークノミクスではなく、気合が入っているのがかなり目に見えてわかります。他のコミュニティよりもトークンに関する議論が活発ですし、直近の$ZKの一件でTGEに関する見方も大きく変わってくるのではないかと考えています。
昔はコミュニティの分散のために利用されていたエアドロ、いまは初期参入者への還元、いわばSOのような使われ方をされているのではないでしょうか?投資対象として魅力的なのが美なのか。価格上昇が正義なのか。はたまたコミュニティの結束力が高まる設計が良いのか。答えはまだ見つかっていませんが、従来のTGEのアンチテーゼとしては十分に面白い考えのもと動いていると思います。
トークノミクスに関する記事は過去にもたくさん投稿しているので、ぜひこれを機に他のアーカイブも見に行ってみてください。ではでは、今日はここらへんで。