現在すべてのDeFiプロトコルを合算したTVLは600億ドル(参照: DeFillama)を上回っています。この盛り上がりおよび資金の流入にはいくつかの要因がありますが、その中でも大きな役割を果たしたのはステーブルコインと言っても過言ではないでしょう。
コロナ禍に置いて金融緩和を行い、政策金利が下がったことによるリスク資産への資金の流入は顕著でそのなかでもクリプトと米国株は大きな躍進を遂げました。ステーブルコインによる運用額にも追い風で、特にステーブルコイン周りのプロトコルはいまでもTVL上位に位置しています。
このレポートでは、そんなDeFiエコシステムの中でも成長に大きな貢献をした「Curve Finance」について理解する上でかなり重要な「Curve War」について解説しました。
はじめに
このレポートを読むために、まずは「Curve Finance」について知りましょう。
まずCurve Warとは、冒頭でも触れた「Curve Finance」を取り巻くエコシステムで勃発した一連の出来事のことを指します。Curve Finance(以下、Curve)とは、主要なDEX(分散型取引所)の一種で主にステーブルコインやラップドトークンなどのペッグ資産のペアを中心とした取引ペアを提供しており、低いスリッページと安価な取引手数料が特徴です。前談として流動性供給の部分に触れておきます。
一般的な取引所では、ユーザー同士の板取引もしくは取引所が購入価格と買取価格を提示することで法定通貨と暗号資産、暗号資産と暗号資産が交換できる仕組みになっています。一方でDEXの中でも一般的なAMM(Automated Market Makers)の仕組みを採用している場合、相対取引とは異なり、ユーザーが流動性を提供した資産に基き決められた仕組みによって価格決定が行われ取引が実行されます。また従来では約定時にプラットフォーム側が徴収していた手数料は、流動性を提供したユーザーに還元される仕組みになっています。
$CRVと$veCRV
source: Understanding $CRV
またCurveではガバナンストークンとして$CRVを発行しています。しかし従来のガバナンストークンの異なり、そのまま投票権が得られたりステーキングができるというわけではなく、ロックすることで受け取れる「$veCRV(veはvote-escrowedの略で、この方式を利用しているトークンを総称してveTokenと呼ばれています)」によって、投票(voting)、ステーキング(staking)、ブースト(boosting)の3つのユーティリティを開放できます。
またveTokenの付与される量は、トークンのロック期間に比例しており、例えばロック期間が1年だと1CRVに対して0.25veCRV、ロック期間が4年だと1CRVに対して1veCRVがもらえ、最小期間は1週間で最大期間は4年に設定おり、これらは譲渡や取引を制限されています(公式Docsもロックと記載していますが、名前の由来からもトークンをエスクローしているという表現のほうが正しいかもしれません)。
設計と問題点
source: Field Guide to the Curve Wars
veCRVをステーキングするとCurve Protocolから発生する全手数料の50%がホルダーへ比例分配されます。基本の取引手数料は0.03%なので取引額の0.015%が報酬となり、もう半分の0.015%は流動性を提供したユーザーに配分されます。またブーストに利用することで、自分が流動性供給を行ったプールの利回り(APY)を最大2.5倍まで増加させることができます。
しかしある2つの問題点が浮上しました。$CRVのユーティリティを最大限に引き出すために4年間ロックすることへの価格変動によつ損失およびユーザーの負担があまりにも大きすぎる点と、運用額が小さなユーザーほど不利な状況に置かれている点です。
流動性向上の戦略
ここで肝心になってくるのが$veCRVのユーティリティの一つである投票の部分です。新しく発行されるインセンティブの$CRVをどのプールに配分するかを決める投票に$veCRVを投票権として参加することができます。この部分が後にCurve Warを引き起こす大きな原因となりました。
プロジェクトにおいて自分たちのトークンの流動性を高めることは、非常に重要なポイントの一つです。特にステーブルコインでは、流通量に対する取引量が多いので、高い流動性と低いスリページ、安価な手数料が市場からは求められてます。低いスリッページと安価な手数料はCurveの仕組み(whitepaper)で解決しましたが、高い流動性を解決するためにとあるスキームも発明しました。それは$veCRVを市場からかき集めて自ら作成したプールの報酬をブーストさせ、より流動性供給を行ってもらうためのインセンティブ設計を作るということです。ちなみにプールは誰でもが作成できるというわけではなく、そもそもガバナンス投票を通す必要があります。
Alchemixを例にあげて考えてみます。Alchemixは利回りを保証した合成資産を作成できるプラットフォームであり、米ドルペッグのステーブルコインの$alUSDを発行しています。そして$alUSDを他の主要なステーブルコインと交換できるようにしようと考えたときに必要なのは十分な流動性の確保です。そのときに自ら多くの資金を利用して流動性の提供を行う手段ももちろん存在しますが、長期的に持続性のある流動性を確保するには他のユーザーが流動性供給を行う必要がありますがそこにはまだ十分な動機がありません。
そこでAlchemixが多くの$veCRVを保有して、$alUSDを含んだプールによる多くの流動性供給に対する報酬が送られるように投票したらどうでしょうか。こうするとユーザーが$alUSDを購入し、該当プールに流動性供給を行うより明確なインセンティブが生まれました。ここでおさらいしておきたいのは、「$veCRVによって利回りのブーストと、プール報酬の決定に投票できる」、「トークンの流動性を向上させたいプロジェクトはより多くの$veCRVを求めている」この2点です。前置きがかなり長くなりましたが本題の「Curve War」の説明に入りましょう。
Convex Financeの登場
source: Welcome to Convex Finance
Curve Warとは、Curveの$veCRVを巡ったトークンの奪い合いです。結論から話すと、Curve Warを激化させ、結果勝者となったのは「Convex Finance」です。先程触れたロック期間の長さと少額ユーザーのデメリットを解決するとともに、Curve Warの重要なポイントでもある「bribe(賄賂)」の仕組みがエコシステム上に形成され、プロジェクトの流動性活性化をサポートするとともに、リスクを抑えて最大限の利回りをユーザーに提供することを可能にしました。
Convex Finance(以下、Convex)とは、主にCurveの利回りを最大化させるアグリゲーターであり、Curveの最大の流動性プロバイダー(liquidity providers)でもあります。ネックだった$CRVのロックを行うことなく、利回りをブーストさせた状態での流動性供給を実現しました。
三方良しな関係
従来の3pool(USDC-DAI-USDT)で、2.5倍のブーストを効かせた最大の利回りを得たい場合は、10,000ドルの流動性供給に対して3,700veCRV必要でした。要するに最効率の方法でも3,700CRVを4年間ロックする必要があるということになり、価格にして約4,000ドル(3月20日のレート換算)が必要ということです。これは全然効率的ではないといえますよね、また$CRVの価格変動による損失の可能性を考慮すると、流動性供給によって得られる利回りを毀損する可能性すらあります。
ではConvexは何を行ったかというと、Convexに$CRVをロックしてくれたユーザーに対して1:1で$cvxCRVを発行し、Convexを経由して流動性供給を行うユーザーに対してその$CRVを利用した$veCRVで利回りにブーストを行い、その利回りから手数料を徴収し$cvxCRVのステーキングを行っているホルダーに還元するという仕組みを作りました。また$CVXを発行し強力なインセンティブ設計を作ることで、$cvxCRVによる利回りを従来の$veCRVのステーキング報酬よりも高く設定することで、$CRVホルダーおよびCurveで流動性供給を行っていたユーザーを引き寄せました。
肝心の手数料はというとかなり強気の17%です。しかし$veCRVを保有していなくとも2.5倍のブーストをかけれていることを考えると、直接Curveに流動性供給を行うよりも利回りが優れていることからこの手数料が決して高額ではないでしょう。また$CRVを$cvxCRVにすると、セカンダリーマーケットでしか$CRVに戻せない、永久ロックになるのでそのリスクに見合ったリターンを提供するための原資と考えると逆に必要な額とも捉えられます。
CVXの価値と歪み
しかしここで疑問が一つ生まれました。$CVXに価値が何故ついているのか。手数料の17%の内の4.5%が$CVXのステーキング報酬(ロック中のものも含む)になっているとは言え、それだけでは正直弱いと言えるでしょう。ここで重要なのはもう一つのユーティリティである「veCRVの議決権」です。要するにConvexが保有する$veCRVの議決権が、$CVXをロックする($vlCVX、vote-locked CVX)ことで得られるということです。結果として$veCRVの価値の変動が起こりました。
純粋に考えて$veCRVの価値は4年間のロックというマイナス点はあるものの1veCRV=1CRVと捉えていいでしょう。しかし$CVXを介すことで歪みが生じます。3月20日時点で、Voting Escrowのコントラクト上に存在する$CRVは643,704,208枚で、$veCRVの流通量は570,656,620まいです。そしてConvexが50.55%を超える288,520,090枚を保有しています。$CVXは97,679,262枚発行されており、54,737,362枚がロックされています。これを計算すると、1veCRV=0.189CVXという問式が成り立ちます。よって1CRV=0.183CVXであることから現在は特に旨味はないものの、$CVXの価格によっては得することを意味します。
またレートが同等であれどこういった見方もできます。$veCRVは4年ロックなのに対し、$vlCVXは16週間なので、価格変動による損失が限定的。こういった状況によって一時期は$CVXの需要が爆発的に増え、いまでも価値を保つことができています。
賄賂経済の誕生
しかしこの歪みがずっと有利に生じていたとしても、プロジェクトが高いコストを払わないといけない現状には変わりありません。しかも$CVXをロックしたとて、vAPRは2.4%ほど。そこでなにが起こったかというと、$vlCVXホルダーに賄賂を支払い票を購入できるようにし、$vlCVXをConvexにロックするよりも高い利回りを選択肢として与えました。
これによってプロジェクトは、$CVXを購入して自らのプールに報酬を誘導する他に、「$CVXホルダーにお金を払って投票してもらう」という選択肢を取れるようになりました。
Votiumの登場
source: Welcome to Votium
Votiumとは、$vlCVXおよび$veCRVなどといったCurveの議決権の獲得を目標とし、賄賂を支払い票の買収を行いたいプロジェクトから報酬を受取る事ができるプラットフォームです。$vlCVXの委任を行い自動運用をVotiumに頼むことも可能かつ、$veCRVや$vlCVXを使った投票を任意のプロトコルに行うことでも報酬の対象となります。
VotiumにvlCVXを委任することで常に最適な利回りを計算して投票を代行してもらえますが、報酬を各プロジェクトのトークンに設定することが一般的で(先述したAlchemixの場合だと、独自トークンの$ALCXを報酬に設定)、Claimの回数がトークンの種類分発生し、ガス代負け(受け取る報酬が支払うガス代を下回る)してしまうことが多くあります。なのでVotiumに委任せずに、自分たちで好きなプロジェクトに投票することも取れる手の一つです(委任を行いながら、都度自分で好きな投票先を決めることもできます)。
まとめるとVotiumは$CVXを管理しているように見えて委任を行わない限りはただの報酬掲示板のようなものにすぎません。ここで勘の言い方はわかったと思いますが、Curveの上の$veCRV対$CVXの構造が、Convexの上の$vlCVX対「多」で起こるのではないかと。それをCurveのCurve WarのようにConvex上のものなので「Convex War」と呼ばれています。これらのトークンの取り合いを総称して「Token Wars」と呼び、Convexは、CurveとFrax Finance(以下、Frax)に次ぐ規模のとToken Warです。
ここまで情報過多になったので、Convex Warに移る前にCurve WarのConvex以外のプロジェクト群を見ていきましょう。
Curve Warのプロジェクト群
Curve Warの勝者はConvexで間違いないですが、各々の持ち分が成長する過程にさまざまなプロジェクトが登場しました。Convex以外の上位2プロジェクトを抜粋して紹介します。
Yearn Finance
Yearn Finance(以下、Yearn)は、Convexと同じく利回りのアグリゲーターを行うプロトコルで、$veCRVのシェアは現在9.25%です。$CRVをYearnに永久ロックすると、1:1で$yCRVが受け取れます。Convexと大きく異なる点は、ロックしてもらえたトークンに直接ユーティリティを付与する方式ではなく、細かくユーティリティを分けたトークンを発行しています。
$yCRVをベーストークン(base-token)とし、ユーティリティがついているトークンをアクティベートトークン(activate-token)としました。
st-yCRV(ロックしたCRVから毎週の管理費(veCRVからの100%の報酬)と賄賂報酬を受取れるトークン)
lp-yCRV(CRV/yCRVのLPトークンであり、そこから発生する報酬を受け取れます)
vl-yCRV($veCRVの投票先を決めるトークンで、報酬は一切発生しないものの$veCRVのような長期のロック期間なく使用できる点からプロジェクトによく買われている)
このように利回りと$veCRVのガバナンスを切り離しユーザーが選択できるようにすることで、より高い利回りを提供するとともに、$veCRVへのアクセスを更に容易にすることに成功しました。
Stake DAO
Stake DAOは、CurveやFraxなどの主要なToken Warsに対して「リキッドロッカー(Liquid Lockers)」を提供しているプロトコルで、$veCRVのシェアは現在4.33%です。手数料がConvexよりも少し安い15%に設定されていり、たくさんのToken Warsに対応しているもののユーザーはあまり伸びませんでした。
$CRVをStake DAOに永久ロックすることで、1:1で$sdCRVを受け取る事ができ、Convexと大枠の仕組みはさほど代わりありません。
このようにConvexのシェアには大きく劣るものの、それぞれのプロジェクトが$veCRVの大口ホルダーであることには変わりありません。もちろんConvexと同様にそれぞれのプロジェクト上でもToken Warsが発生しています。話を本題に戻して、次にConvex Warについて見ていきましょう。
Convex Warの勃発
Curveの$veCRVを保有することがいちばん高級なものになり、$CVX争奪戦が始まったことは先ほど説明しましたが、どの規模まで発展しているのでしょうか。Curve、Fraxに次ぐ3番目と言いましたがその規模は、なんとCurveの約6億4400万ドルの半分に迫る約3億1900万ドルにまで拡大し、いまもなお大きくなってきています。
Frax、Pirex(pxCVX)、Clever(clevCVX)などが参戦しており、今後さらに激化することが予測されます。さらにFraxでは「Frax War」が、Cleverでは「Clever War」が起こっているので、もうぐちゃぐちゃの構造になってきてますね。
そのなかでもConvexよりもロック額の多い「Frax War」について、Fraxのエコシステムのレポートとともにリクエストがあったので近日公開しようと思います(これはめっちゃ難しい、、)。
まとめ
Curve WarはDeFiの出来事の中でもかなり印象的にもかかわらず、日本でも知名度はかなり低いといえます。個人的に大好きな領域なので「Frax War」の他にも「Velodrome Race」や「Balancer Wars」、「Solidly Wars」、「Wombat Wars」あたりは近いうちにレポート書きたいですね。
ちなみにここまで敢えて図を使わずに説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?自分がCurve Warを始めて知ったときに見たのがえぐい複雑な図で困惑した覚えが会えるので、今回は文字ベースの説明にしてみました。もし図が必要とかがあればDMでご連絡ください。
とっても分かりやすかったです。curveには個人的に興味があったので、とてもありがたいレポートでした!