国内大手ゲーム事業者が軒並み有名どころのチェーンと提携を進める中、オンチェーンデータではゲーム利用上位を占めているにも関わらず、日本では話題に上がっていないチェーンがいくつかあります。
その中でも「ImmutableX」はEthereumのL2でということで知っている方も多いですが、実はブロックチェーンゲームのアクティブアドレスがいちばん多いチェーンはそんなに国内で話題に上がっていないチェーンなんです。執筆時点(2023年7月末)のアクティブアドレスTOP3は「WAX」がすべてを占めています(マルチチェーン展開しているゲームタイトルも含む)。
実はWAXを詳しく知ることで持続性のあるブロックチェーンゲームを作るための鍵を知ることができるかもしれません。この記事ではゲームとNFTのためのブロックチェーン「WAX」について概要とオンチェーンデータをまとめました。
※この文は最後になって書き足してますが、プロジェクトの概要を読みたい方は最後の方までぶっ飛ばして読んでください。
開発元はどこなの
初めてホームページを見たときは若干の怪しさを感じたのは冗談ですが、詳しく調べてみると非常に面白い会社が運営しているブロックチェーンでした。
ブロックチェーンゲームに精通している方だと軒並み知っている「CS: GO(Counter-Strike: Global Offensive)」というゲームのゲーム内アセットの売買を行うプラットフォームを運営していた「OPSkins」がWAXの母体となる会社です。色々ありまして後にOPSkins自体はサービス終了を余儀なくされましたが「Worldwide Asset eXchange」の名のもとにBCG市場に名を残すことになります。
冒頭で「WAXが持続性のあるBCGの鍵」としましたが、なぜならCS: GOのアセット売買を容認したゲームこそがこれからのBCGの一つのジャンルとして発展していくと私は考えているからです。フルオンチェーンゲームの目指す未来とロマンにはもちろん共感ですが、グラデーションのあるWeb2.5的な広がり方を見据えるとすごく良い落とし所な気がしてまして。実際にオンチェーンデータも物語っています。
意外と使われている
ぶっちゃけると国内でそんなに聞いたこと無いチェーン(個人の意見)なのは置いておいて、意外と多くの人に使われているという事実は知っておくべきでしょう。
執筆時点(2023年7月31日)のユニークアクティブウォレット数ランキングを見てみましょう。ゲーム部門だけに絞ってみたところ上位3つのゲームがWAXを含んだチェーンで提供されていることがわかりますね。そして上位の2タイトルでは日間ユニークアクティブウォレット数が10万を超えています。
また単なるユーザーの数だけではなく、ユーザーの離脱率(継続率)にも他のチェーンとは一味違う結果残しています。
このグラフを見て勘の良い方はすでに気づいたと思うんですが、トレンドになった一過性のあるゲームと比較して圧倒的にユーザーの離脱が少ないです。日本で旋風を巻き起こしたSTEPNと本当は比較したかったのですが、オンチェーン部分の実装が主に入出金部分しか無いため仕方なく今回は「Axie Infinity」と比べてみます。
Axieに関しては異様な盛り上がりだったのでこれと比較するのはなんだかなあって感じもしますが、いずれにせよ多くのユーザーを留めることができているゲームがWAXに多く存在していることは何かしらの学びになるかもしれません。
一方で取引量の推移を比較してみると、Axieはユーザーの推移とかなりの相関性があるのに対してWAX上のゲームの場合はかなりまばらな取引量の分布になっているのがわかります。なぜ関連取引が減少しているのにユーザーが残っているのか気になりますが、かなりゲーム自体に魅力があるかもしれないので後ほどプレイしてみます。
なぜ使われているのか
結局なんでWAXが使われているんでしょうか?ぱっと見で2つの仮定を立てたので順番に合っているかどうか見てみましょう。
某PolygonチームのようにBizが強え
ゲームのパブリッシャーがOPSkinsだから
まずは一切隠せていないですが某Polygon様のようにBizチームがかなりお強い、のかなと思ったんですがゲームタイトルを見ても特に輸入タイトル(元々ブロックチェーンゲームじゃなかったゲーム)があるわけではなかったのでこれは違いますね。
ではゲームのパブリッシャーはどうでしょうか?調べてみたところAlien Worldsは「Dacoco」が、Farmers Worldは「G.JIT JAPAN」という会社が開発しています。どっちでも良いんですが後者の社名にJAPANと入っていたので法人検索してみたところ出てこなかったので、日本の会社ではない可能性が高そうです。
どっちでもなかったですね、予想が外れました。ってことは普通にWAX自体に使うメリットがあるってことなんですかね。
なんか凄いのでは
WAX($WAXP)についていろいろ調べていたのですが、なんか色んなチェーンや話題で注目されていた要素がもりもりに詰まっている気がします。
概要とともに特徴をいくつか見てみましょう。
Antelope(旧: EOSIO)をもとに開発されたL1チェーン
コンセンサスアルゴリズムにはDPoSを採用
スマートコントラクトはC++で書ける
アカウントにAdmin keyとActive keyがありAAのような役割をする
ソーシャルログインでアカウント作成できるクラウドウォレットを搭載
BOT対策のためにクラウドウォレットの作成手数料導入
2019年6月5日19時(Block #1)にローンチしたWAXですが、2017年末にEhtereum上でERC-20トークンを発行し既にICOを行っていたので、独自ブロックチェーンをローンチしたタイミングでWAX上のトークンと交換可能になりました。
いまでは大きな選択肢の一つになっているコンセンサスアルゴリズムのDPoSですが、その筆頭であるBNB Chain(当時はBinance Smart Chain)はまだローンチしておらず、いまも残っているL1では早い段階から導入されていました。
またウォレットも面白くて、AA(Account Abstraction)に近い設計を実現するためにAdmin keyとActive keyに分離された鍵管理方法で、署名レスでのトランザクション実行が可能になり、より高いユーザー体験を提供しています。
Web3AuthやMagicで話題になったソーシャルログインによる秘密鍵管理を自身で保管せすとも作成できるウォレットの機能にも対応しており、WAX内でのシェアが90%を超えるなど、新規ユーザーの獲得に貢献しています。なおしっかりBOT対策を行うために新規アドレス生成に5WAXPの手数料を設けるなどし、一時的ではないきちんとしたエコシステム発展を実現しています。
こう見るとやっぱり、非ブロックチェーンネイティブユーザーへの基礎的なユーザー体験の提供って移行するためにめちゃ重要なんだなとふと。。。
キニナルところが
ところでWAXを使っているコアユーザーはどこの国の人たちなのか、みなさんは気になりませんか?Axieは東南アジア、STEPNは日本、となればWAXは?上で出てきた2つのゲームのホームページの国別アクセス数ランキングを見てみましょう。
「Alien Worlds」から見てみましょう。アクセス数ではアメリカ、ウクライナ、インドネシア、が上位を占めていますが、滞在時間が圧倒的に多いのはトルコとブラジルなので、実際にプレイしている層が多いのはトルコとブラジルでしょう。
「Farmers World」も見てみましょう。Alien Worldsよりも変動率が激しく、少し前はロシアやインドネシアで流行っていたようです。滞在時間とページのアクセス頻度を見るといまはフィリピンで多くプレイされているようです。
こう見ると暗号資産の注目度自体が上昇している地域でのプレイが中心のようです。
あともう一点気になったことが、WAXはクラウドウォレットという仕組みでソーシャルログインを可能にし署名レスを実現していますが、それらのAdmin keyは現状のところ自分たちで管理できない仕組みになっています。将来的にユーザーへの所有権の移行を目標にしていますが、現時点ではWAXのCEO、CTO、COO、ブロックチェーンリードの4人からなる「2 of 4」のマルチシグで管理されています、、、
さいごに
いろいろ見てきましたが、もうちょっと世間から注目されてもいいような気がなんとなくするんですよね。すでにまとまった人数のゲームプレイユーザーを獲得できているチェーンはそんなに多くないので選択肢の一つになっても良いと思います。
更に調べてみると実はWAXさん、米国法人のカプコンUSAと提携し、2020年から2021年にかけてストリートファイターのNFTがWAX上で発行していたみたいです。そこから日本の事例はあまりないですが、これは今後に期待ですね。
WAXの特徴として今回書ききれなかったリソースモデルの仕組みについて、従来のEthereumのようなモデルではなく、SUIで導入されているような一部ガス代が変換される仕組みなどもあったのですが長くなるのでまたの機会に書きたいと思います。