インターネット上での発言は誰でも一定数の影響力を持ちます。例えば最近のXとかだと構造的にBlueユーザーのリプが上位に表示されますよね。大抵の人は全てのリプを見ないと思うので、上位の反応を世の中の一般的な考えの代表のように脳内で勝手に捉えてしまうケースが多々あります。
皆さんが使えている一般的なSNSは日本にいる限り酷い検閲は受けずに誰でもが情報発信をできるのが特徴です。しかしそれが故に誇張した内容や虚偽の内容が流布されることもしばしば起こってしまっています。
今回は直近で話題になっていたマイナンバーカードでウォレットを生成する「マイナウォレット」の一件について、世間の反応と実際のプロダクトに大きな乖離があったのでいくつかの訂正を解説したいなと思います。加えてこういった世間の反応による日本のイノベーション阻害についても話しています。
※本件についての反応があまりにも目に余るものになっているので、急遽本日のニュースレターの内容を変更してお届けしています。
マイナウォレットとは
話題にっているマイナウォレットの詳細についてまずは解説します。マイナウォレットとは、以前よりブロックチェーン業界の最前線で活躍してらっしゃる橘博之さんが代表の日本法人「a42x株式会社」が開発しているウォレットやそのウォレットの生成技術などを指すプロダクト名です。
なぜ「マイナ」ウォレットいうかというと、日本の新たな公的個人認証のマイナンバーカードの内部情報をもとに暗号資産ウォレットを生成するから。ウォレットの生成、相手のウォレット情報の読み取り、マイナンバーカードを用いたウォレットの認証、ウォレットの本人確認などを起点としたさまざまな活用が期待されています。
またなんでこのタイミングでマイナウォレットが話題になったかと言うと、この技術の研究に対してEthereum FoundationからGrant(助成金)を獲得したから。助成金の区分はAccount Abstraction系の「ERC-4337 Account Abstraction Grant Round」。Ethereum FoundationからのGrantは日本人では数えるほどの人数しか獲得できておらず、かなり界隈内で名誉なことです。
でもこのマイナカードにいまかなり歪んだ理解をした投稿が広がってしまっています。例をあげながら順番に見ていってみましょう。
国に個人情報が抜かれるのでは?
今回の話の中でいちばん歪んだ理解をしているのがこれ、マイナンバーカードの元をたどれば住民票を持っている人に対して発行しているものなので、自治体や政府、税務署などにウォレットの資産情報が渡ってしまうのではないかというもの。
これに関しては「NO」で、今回ウォレットの生成システムを作っているのはマイナンバーカードの発行機関ではなく一企業です。しかもマイナンバーカードの内部情報を一つのパラメーター的にウォレットの認証情報を生成しているまでで、マイナンバーカードの情報を抜かれているわけでも無ければ、マイナンバーカードの個人情報に銀行口座情報のように資産情報が紐づいているわけでもありません。
一方で似たような構造で国や税務署に情報が渡る可能性がある事例もあります。例えば国内の暗号資産交換事業者で本人確認をして暗号資産を管理していた場合、税務署や捜査機関の要望に応じて情報が開示されるケースがあります。これに関しては犯罪や脱税などをしない限り起こり得ないので気にしなくて大丈夫ですね。先日紹介したMetamaskの本人確認などの話はこっち側に位置します。
シードフレーズを忘れたらどうするの?
ウォレットのシードフレーズや秘密鍵を忘れたら従来のウォレットと同様にアクセスできなくなるのというもの。
これに関しても「NO」で、ウォレットアドレスなどのウォレットの一般的な情報はマイナンバーカードの内部情報によって一意に生成されているものなので、リシードフレーズや秘密鍵を覚えておく必要はありません。
マイナンバーカードが盗まれたら?
マイナンバーカードが盗まれたら管理していたウォレットの資産にアクセスできるようになるのでは?他人のマイナンバーカードを利用しても一意な内部情報から不変的なウォレット情報に変換しているため問題になりそう。
これに関しては「YES」で、指摘の通りマイナンバーカードを落として資産にアクセスされる可能性は十分にあります。一方でマイナンバーカードと資産が直結しているように見えるので問題視されますが、ウォレットになったからといって特段な問題では無いと判断しています。
なぜならウォレットと紐づけていなくともパスポートや健康保険証、住民票なども同じで落として悪い人に拾われたら悪用される可能性はウォレット部分以外にも無数にあるから。でもここらへんの課題や、再発行時の対応などはすでに問題として橘さんたちも認識しているであろう。
匿名性が失われるのでは?
マイナンバーカードを利用したウォレット作成だと、Web3のメリットである匿名性が失われてしまうのではというもの。個人情報をもとに生成していて相手に情報を教える時に自分のマイナンバーカードを出さないと行けないのでは。
これに関しては「部分的にYES」ですね。でもそもそもウォレットと本人確認が必要な状況での利用が想定されているので、想定されているユースケース的に匿名性が失われて当然のものとしての理解。一方で匿名性を高めたい場合、本人確認等に利用しなければ恐らく個人と紐づくことはないはず。
本当に個人と紐づかないようにしたく、反マイナンバーの人たちが純Web3()でいたい方はその他のセルフカストディウォレットを使えばいいだけ。
結論
こういった研究開発は個人的にかなり嬉しいですし、どんどん広がってほしいなと思います。一方でこの内容に関して、どうせ使いもしない人たちが不安を煽るコメントを知識が無いのに載せるのは普通に失礼じゃないですか?
何が「これで国がWeb3にも入り込んで、国民の資産移動を全て監視しようとしているんだ」とか言ってんだよって思いました。大変失礼極まりない!
他の領域でも捻じ曲げた意見の自分のフィールドに持ってきて独自の理論を展開するパターンはよく見かけますが、これって普通にイノベーションを起こりづらくしていると思うんですよね。身の回りの世の中にあるもので強制されていることって基本的に限られていて、特に日本の場合は選択肢が多い国だと思うんですよ。
気に入らなかったら使わなければ良いだけなのに筋の通ってない理論で批判するのはまっじでやめてほしい。そう思った一連の世の中の反応でした。
Web3AuthとかMagicのようなソーシャルログインによるウォレット生成のときもGAFAに資産移動が監視されるとか言ってた人がいたように、こういった人たちって絶対にいなくならないんですよ。なので自分で正しい情報を摂取し取捨選択できる環境を時間をかけて構築していきましょう。ではまた明日朝のニュースレターで。