この業界およびこの業界で活動する人たちにとっていちばん厄介な人たちは誰でしょうか。それはTradFiの存在でもなく、GAFAMのような巨大企業群でもありません。言わずもがなSECを始めとした規制当局と言えるでしょう。
その締め付けと身勝手な行動は、規制に準拠してビジネスを行っている人たちからも呆れられるほどで、特に春先のCoinbaseを見ていてとても可愛そうな気分になります。しかし彼らも黙っているわけではなく、着実に協議を進めている最中です。そしてCoinbaseと並ぶほどに規制当局に対するロビー活動を行っているのが、クリプト領域に主に出資を行っているファンド、広義のVC(ベンチャーキャピタル)です。
このレポートでは、クリプトVCとして業界トップを走っている「Paradigm」からSECの規制に対する解像度の高い見解が投稿されていましたので、そちらの翻訳と適宜解説を行っています。
source: Due to SEC Inaction, Registration is Not a Viable Path for Crypto Projects
※レポートを読む前に我々は現地の法律の専門家ではない上、執筆時と読んでいるときには情報が事実と異なる場合があります。また投資助言やそれらの一切の事項には該当するものではありません。
はじめに
スタートアップとして事業や会社を軌道に乗せるためには、多くの書類を準備したりフォームを入力したりする必要がありますが、殆どのケースにおいて比較的簡単でわかりやすいものであることが多いです。例えば会社を設立するときには、アメリカでは州務長官事務所に法人設立説明書を提出する必要があり、日本では関連書類を揃えて法務局に登記申請を行う必要があります。話を少し脱線するとあと3週間でうちを立ち上げてから2年なので法人登記は少し懐かしさが少しありますね。
これには多くの創業者が行政書士や弁護士を用いて簡略化していますが、頑張れば自分でできてしまうことで、毎日何千もの法人が設立されています。それと同じようにSECのゲンスラー氏(Gary Gensler、SECの現委員長)は、クリプトプロジェクトのトークンや暗号資産関連サービスをSECに登録することを「シンプルかつとても簡単だ」と思わせたいようです。
しかし現実は甘くなく、結論はNOです。そんなに簡単なわけがありません。
ゲンスラー氏の対応
SECがKrakenを訴えたことは記憶に新しいでしょう、その発表のときにゲンスラー氏はアメリカの全国放送でこう答えました。「Krakenを含む暗号資産関連企業はSECへの登録の仕方を知っていたにも関わらず、登録という道を自ら選ばなかった」と。結局KrakenはSECに3,000万ドルの賠償金とサービス停止をもって和解することとなりました。が、なんかモヤモヤしますよねこの事例。当時も見ててそう思いました。
ゲンスラー氏はその数日後に発表した意見書の中で、より詳しく上記の件について言及しており、そこでは「率直に話すと、暗号資産仲介業者(一般的には取引所)は、SECに登録して議会が制定した法律に遵守しようとしているようには見えない。ビジネスモデルとして、多分コンプライアンス違反を行うことに以前しているのではないだろうか」と話していたようです。
そして今年の3月22日、何年にもわたり明確なガイダンスや規制の確実性を提供できなかったCoinbaseに対して「Wells notice」を送りました。受け取ったCoinbaseによると、SECはどのトークンが証券に該当しているかを言及せずに証券性のあるトークンを上場させたとし、更には登録方法を言わずに未登録のステーキングサービスを提供していたとしてちょっときつい言い方をすると脅したということです。これにはCoinbaseのCEOであるBrian氏も言及しています。
関連レポート: Coinbaseと一緒にStakingの証券性について考える
ゲンスラー氏の戦略
ゲンスラー氏の行動とコメントは、以下の2つの意味で利己的と言えます。まず1つ目に、ほとんどの暗号資産関連サービスとそれらのトークンは「証券」であり、SECに登録する必要があるものだ。と暗示することによって、暗号資産市場に対するSECの管轄権の違憲的な拡大を正当化しようとしていること。
次に2つ目に、暗号資産業界全体を単に自らで規則に従わないことを選んだ「故意的な法律違反者」で構成されている、この光景は「駄々をこねる赤ちゃんのよう」だと表現することで、SECに罰せられる正当性を描こうとしています。
しかしそもそも証券性があるだとか、証券に適応可能性があるとかはさておき、クリプトプロジェクトや暗号資産事業を行う事業者が、規制に「準拠」するための「明確」な道筋を示す「枠組み」を知るためのリソースがオンラインにもはたまた弁護士と話しても得ることができません。
仮にIPOを例に上げるとすると、アメリカでは「Form S-1」を使用し、かつ弁護士団と協議し数百万ドルの費用を要して完了できることが周知の事実ですし、すでに企業の事例が山ほどありますよね。
要するにSECが暗号資産などのデジタル資産のユニークな側面に適応させるまで、まず「登録する」という事自体が現実的に不可能な環境だと言うことです。現在の登録フォームは、暗号資産のユニークな側面に対して不十分な一連の開示に依存しており投資家にとっては不利な状態に置いています。また登録をするにはトークンやそれらに参加する者、はたまた取り巻くエコシステムにも多数の規制が伴い、ほとんどのプロトコルの存続をほぼ不可能にしてしまっています。
実際にアメリカにおいて登録されたトークンの販売がほぼ存在していないのは、SECがセキュリティトークンの実用可能な規制の枠組みやガイダンス提供していない上に、暗号資産業界の人たちといままで建設的な議論を行わなかったからです。
Coinbaseの努力
Coinbaseは米国株式市場の上場企業であり、暗号資産事業でSEC登録企業の最たる例です。そんなCoinbaseは、2022年夏にSECに対して、「取引所としてステーキングなどの事業を行うために、デジタル資産市場に必要な大きな未解決事項がある。」としてそれらの明確化を目的とし規制制定に関する請願書を提出しました。
しかしその請願書は2023年3月末現在でも回答されていません。その代わりに2023年3月22日には、ルールメイク及びロビー活動を通じて積極的に明確化を求めていた部分を包括する内容のWells noticeを送付しました。
この流れを聞くと本当にありえないですよね。ルールが無いところにルールを作ろうよと呼びかけると無視され、放置された挙げ句、ルール違反だと訴えられているのが現状です。この対応によって多くの事業者のSECへの見え方が変わりました。
こういったことからSECが暗号資産の分野において適切な投資家保護が提供されることを切に願っているのであれば、「クリプトプロジェクトがSECに登録することができるのにしていない」と言っているのはでっち上げで、かなりの矛盾が起きていることになりますよね。
現在のこの体制でSECに登録するクリプトプロジェクトの実現可能性について検証する必要があり、それらの評価を踏まえた上でこの業界がどう規制されていくべきかってことを、順番に沿って議会で正しく議論されていくことを期待しています。そうすると暗号資産業界、暗号資産の懐疑論者、政策立案者、利益団体、そしてアメリカ国民の暗号資産に対する取り組み、それを規制するための道筋が見えてくるでしょう。
では今日はここらへんに、明日はこの内容の続きの<Part 2>を投稿します。メールアドレスを登録することでメールで投稿の通知を受け取れます。ぜひまだ完了していない方はぜひ登録をお願いします!また昨日のニュースレターを見ていない方は↓