みなさんこんばんは、今日も昨日と一昨日に引き続き「LSDFi-CDPの可能性と限界」について話していきます。長くなりましたが今日で完結です!
前編と中編を読んでいない方はこちらからまずは読んでください↓
前々からステーブルコインに関して勉強になる記事を投稿しているCaesar氏はぜひフォローしておいてください!今後も彼が投稿した記事でみなさんにお届けしたい内容があれば許可をいただいて翻訳解説をするようにします。
Special thanks to @CaesarJulius0 and source
LSD建てステーブルコインの考察
これまでは個々のLSD建てステーブルコインの考察を行いましたが、そこから導き出せる機会創出と限界を分析しながらこれらのステーブルコインの概況と流れをより理解しやすくするために考えを共有しました。
これから行う分析はLST担保ステーブルコインの競争状態をより理解し、それぞれが持つトレードオフの部分を証明するために行います。そのために現状の把握とこれからの進化の予測のためにSWOT分析やってみましょう。
強み(Strengths)
価値の保存
LST建てのステーブルコインはほとんどのユーザーがETHの利回りを享受しながらステーブルコインを手に入れられているので、価値保存のための優れたツールと言えます。その結果として低リスクの利回り機会及び価値の保存手段として成長している領域の一つです。Fiat建てステーブルコインと比較した時に、固有の利回りを提供できている点は運用先の一つとして選ばれる可能性であり競合優位性だと言えます。
利回りの機会創出
ステーブルコインの利回りは5〜8%でトレーダーから見ると見劣りするものがあるかもですが、ベアマーケットなことを加味するとDeFiエコシステム内ではかなり高い利回りを実現できています。資金の流入を見ると大口からの需要が特にわかります。
流動性のロックを解除
LSTはロックされたETHの流動性を有効活用する一つの手段であり、成長領域であるLSDのユースケース拡大としてエコシステムに貢献するでしょう。
ETHへのエクスポージャーの増加
LST建てステーブルコインはユーザーがETHへのエクスポージャーを拡大させる一つの手段です。ETHエコシステムを拡大するためにも有用です。
弱み(Weakness)
成長が市場の採用に依存
LSDFi自体が新しいカテゴリーであり、今後さらなる研究対象であることは確か。その中でも市場が拡大しているLST建てステーブルコインは、エコシステムへの溶け込み(採用)と成長が密に比例関係にあります。
資本効率の悪さ
LST建てステーブルコインもCDPモデルをほとんどで採用しているため、清算リスクを回避するための過剰担保が必要になります。資本効率の面で話すとETHのロックされた流動性を解除できる一方で、単体で見たときの資本効率の悪さは課題になっています。
交換媒体の機能
LST建てステーブルコインは本質的に利回りの機会を得るために利用されるものであり、交換媒体として利用される可能性は極めて低いです。
限られたユースケース
持続可能性のある利回り付き資産であることが大きな価値提供になっている一方で、流動性の欠如や分断がユースケースを狭めています。保有すること以外の活用法が少なく、現状保有して利回りを得ること以上のインセンティブが他にない。
機会(Opportunity)
LSDの成長に乗っかる
ETHのstakingはEthereumエコシステムの安全性と利回りへの期待によって長期的にさらなる成長が見込める領域の一つです。ETHのstaking率は年々増加傾向にありこれからも成長すると思うので、そこでLSDが成長し発行されたLSTの活用先として発行量を伸ばせる可能性がある。
インフレに対する価値の貯蔵
インフレに対抗するための利回り付き資産への需要は、Cryptoに関わらず既存の環境でも存在しています。インフレに強いステーブルコインやフラットコイン(flatcoins)を作ろうとする試みが既にあるように、その需要を感じることができるでしょう。本質的にLST建てステーブルコインはインフレに打ち勝つために存在するわけでも、インフレに対抗する価値の貯蔵庫として存在するわけでもないですが、結果的にインフレに対抗するツールとして機能することが証明されたことにはかなりのチャンスがあります。
脅威(Threat)
イノベーションの欠如
LST建てステーブルコインの殆どがLiquityのforkなのはこれまでの紹介を見ても分かると思います。本家との違いはほとんどなく、担保資産にLSTが追加されただけと言われてしまえばそこまで。LiquityがLSTの担保発行に対応した暁には、、流動性においても信頼感(ブランド力)においても頭ひとつ抜きん出てるやつに他のprotocolの提供価値が提示できるのか問題。
利回り低下による魅力の減少
ETHをstakingするユーザーは今後増加することが見込まれているので、それに伴ってETH stakingの利回りが減少する可能性が多少あります。ETHの利回りをステーブルコインの利回りの源泉としている場合、その利回りが他より魅力的で競争力のあるものじゃなくなる可能性大。
需要と流動性の低さ
LST建てステーブルコインに共通する強い需要と流動性の無さは、説明の中でもあったように色んなことが原因としてありますが認識するべき。
競争から起こる流動性の分断
現時点のLST建てステーブルコインのプロジェクトを見ている限り、複数のチームがシェアを獲得するために競争関係になっています。かつずば抜けて発行されているものがないため、それぞれのステーブルコインで見た時に流動性が分断してしまっています。長期的にこの環境が続くのであれば、どこも抜けて成長しないので全員で全員の足を引っ張ることになり、市場としての頭打ちが従来より早く来る可能性がある。
ベアマーケット終了時にどう映るか
いまのマーケットで主要な投資家はベアマーケットでの運用方法が限られてる背景があってLST建てステーブルコインを選択している可能性があります。ブルマーケットで5~8%の利回りが魅力的かどうかは人それぞれで、資金の多くがハイリスク・ハイリターンの市場に流れるのがいままでの流れでした。一般的にベアマーケットが終わると、DeFi市場全体の大幅な成長が見込めるので悲観するべきではないですが、次の大きな波を引っ張る主要なカテゴリーになりうるのかは見極める必要がありますね。
まとめ
LSDFiへの関心の高まりと同時に、LSDFiの一つの要素としてLST建てステーブルコインが注目されていることは市場の反応や資金の流入を見てもわかります。しかしほとんどのLST建てステーブルコインはPMFする可能性が低いか、それぞれの個の優位性を持たない上に、覇権を取っているステーブルコインに競争性のあるものではありません。R、GRAI、eUSDのようないくつかのLST建てステーブルコインは、crvUSDやLUSDに対しての優位性すらも持っていないのがいま。
その中でもPrismaは面白い事例でmkUSDホルダーの利回りを向上させるために、独自のトークノミクスを採用しています。CDPという観点で差を付けにくい過剰担保型ステーブルコインの市場において、短期的でわかりやすいインセンティブの採用ではなく長期的な流動性向上や価格安定性を実現しようとしている点は素直に良い。
加えて繰り返しますがEthenaのUSDeは既存のCDPモデルの基盤から大きく変えようとしているプロジェクトで、資本効率性の向上からさまざまな要素の改善に期待できます。デルタニュートラルポジションによって清算リスクからの回避、funding rateの金利収益によるさらなる利回りの向上、交換媒体としての利用にも王手かも。でもこれが全て肯定されるわけじゃなくて、CDPからの脱却、資本効率の向上という点でFiat型に近いとも捉えられますが、ETHの変動益を享受したいユーザーには不向きですね。ここはトレードオフなので、CDPとデルニューのどっちかしか残らない的な世界線は来ないと読んでいますね。
以上、LST建てステーブルコインについての大枠はこのような理解です。やはり重要なのは「資本効率を改善するモデル」「新たな利回りの源泉を創出」の2点。ブロックチェーンのトリレンマ的に重要な要素において何らかのトレードオフがある現状に、どのようなアプローチで解決するのかはみなさんも議論に参加してみましょう。